東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)164号 判決
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨および本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 原告は、その主張の二点において本件審決が認定判断を誤つた旨主張するけれども、いずれも理由がない。
第一に、原告は、本件審決は本願考案にかかる計器機構の基本的構造を誤認したというが、本願考案の構成を示す前記当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、本願考案においては、捩り得る繊条を引張りばねによつて常時引張り状態に保つことは構成要件とされていないことが明らかである。成立に争いのない甲第一号証(本願考案の出願公告公報)によると、その実用新案の説明の項および図面において、回転部を固定部に対してある軸の周りに廻しうるように取り付けるため短い繊条を用い、かつ繊条を引張りばねによつて引張り状態に保つべきこと、また、その効果として回転部の回転角を一二〇度を超え、二五〇度を超える範囲にまで大きくすることができる旨の記載があるけれども、登録請求の範囲の項には、なんらそのような限定条件の記載はないばかりでなく、むしろ実用新案の説明の項には、本願考案の目的の一つとして、吊型計器に用いる繊条を製作する改良方法を提供するにある旨の記載もあることを認めることができる。
以上に認定した事実を総合して考えると、本願考案の計器機構は、原告主張のような限定的条件が付されたものということはできず、実用新案の説明の項および図面の記載は、単に実施条件の説明として、実施例に属するものの記載にすぎないと解するのが相当であり、したがつて、本願考案は、回転部を固定部から吊り下げる構造の計器一般を対象とするものと認めるのが相当である。したがつて、原告の前記主張は理由なく、本件審決理由の挙示する、捩り得る繊条を用いて回転部を固定部から吊り下げる構造の測定計器が電気計器として最も代表的型式の一つであること、第一引用例および第二引用例がいずれも本願出願前国内公知の刊行物であつて、それぞれに審決認定のとおりの技術事項の記載があることおよび一般に焼鈍処理によつて白金合金の内部歪が除去されることが周知であることをいずれも原告が認めて争わず、かつ、一般工業用材料としての白金合金の焼鈍処理により内部歪を除去する技術を電気的測定計器に使用する白金合金の繊条に適用することについて障害となるべき技術的事由は、本件にあらわれた全証拠によつても見出すことができないから、以上を総合して本願考案の測定計器の構造を当業者が容易に推考しうるものとした本件審決の認定判断に誤りはないといわざるをえない。
第二に、原告は、本件審決は本願考案の奏する特段の作用効果を看過した旨主張するが、その主張は、前記のように本願考案の要旨に含まれない限定的条件を付した構成を前提としたものであることが主張自体で明らかであり、本願考案の計器機構がそのような限定的条件を付したものといえないことは、前項において判断したとおりであるから、原告のこの主張もまたすでに前提において失当であるといわなければならない。
三 以上のとおり、本件審決に原告主張のような違法はないから、その取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却する。
〔編註〕 本願考案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。
本願考案の要旨
固定部と、回転部と、回転部を固定部に対して軸の周りに回し得るように取付けるためにこの軸沿いに延びる長さを有して捩り得る繊条を備える取付装置と、繊条の第一端を固定部に固定する第一固定装置と、繊条の第二端を回転部に固定する第二固定装置とを備え、上記繊条は歪を除去した白金と硬化成分との合金で成るようにした測定計器の構造(別紙図面(〔編註〕省略)参照)。
本件審決理由の要点
本願考案の要旨は前項記載のとおりである。ところで、捩り得る繊条を用いて回転部を固定部から吊り下げる構造の測定計器は、電気計器として、従来最も代表的な型式の一つである。本願考案は、この懸垂用繊条の材料として、歪を除去した白金と硬化成分の合金を用いたものであるが、本願出願前国内において公知の刊行物である昭和三〇年富士電機製造株式会社発行の富士時報第二八巻第三号の二一一~二一二ページ(以下「第一引用例」という。)には、この種の懸垂用バンド材料として硬化成分を含有する白金合金の使用例が記述されており、また、同じく本願出願前国内において公知の刊行物である昭和三一年産業図書株式会社発行の岡田辰三外一名著白金族と工業的利用の三四六~三四七ページ及び三六一~三六二ページ(以下「第二引用例」という。)には、一般の工業的材料としてではあるが、白金の硬化成分の添加とその性質を改良するための焼鈍処理についての記載がある。焼鈍処理によつて材料の内部歪が除去されることは周知のことであつて、測定計器を本願考案のような構造とすることは、第一引用例及び第二引用例の各記載内容から当業者が必要に応じて極めて容易に構成しうるところである。したがつて、本願考案は旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第一条の規定によりその登録を拒絶すべきものである。